「じゃあ、白無垢を来た女の子はどこに行ったか知ってる?」
 「……なっ……」
 「知ってるのね!?あの女の子はどこに行ったの?」
 「知らない」
 「知ってる。その目は知ってるのに隠し事をしてる目よ。そういうの私すぐにわかっちゃうタイプなの」


 思わず「白無垢」という言葉に反応してしまった矢鏡の微かな動揺を、女は見逃さなかったようだ。
 
 どうして、この女がその事を知っているのか。森の中に白無垢の女がいるはずもないのだから、きっとあの嫁入り行列を女も知っているのだろう。
 あれは何だったのだ。そう聞きたいが、それを話してしまえばあの日の事をこの女に話さなければいけない。崖から飛び降りて死んだだろう、と。そんな事を伝えられるはずもなかった。それに、知っていると伝えてしまえば、ますますこの女がここから去るのに時間がかかってしまう。
 どちらも、避けたい事だった。


 「もういいだろ。早く帰れ」
 「何で?教えてよ」
 「知らないんだよ。白無垢の女も蛇神様とかいうのも。それを知ってどうするっていんだ」
 「それを話したら、教えてくれる?」
 「だから、俺は何も知らない」

 
 しつこく聞いてくる女をうんざりしたながら、見返す。
 年下の女のくせにどうしてこんなにもうるさいのだろうか。初対面で怪我の手当までしたのに、どうしてこんなに質問攻めをされなければいけないのか。自分の罠で怪我をしたので申し訳なく思って助けたが、手当などせずに放っておけばよかっただろうか。
 そんな考えを頭の中で巡らせていた時だった。



 「私もあの子と一緒なの。次に死ぬのは私だから」


 何を言っているのか頭で理解するのに時間がかかってしまった。
 その女の表情は「死ぬ」と言っているのに、強いまっすぐな視線で、にこやかに笑っていたのだ。
 死とその笑顔がどうも結びつかずに、脳が理解するのに苦しんだのだろう。


 この女もあの崖から飛び降りるというのか。
 驚愕と戸惑い、そして妙な怪しい笑みから、矢鏡は目を離せなくなってしまった。