「その娘さんは、どうして亡くなったんですか?」
 「どうやら森に遊びに行って戻ってこなかったらしい。そして、崖で足を滑らせて転落死したそうだ。あの山は一見穏やかだが、突然切り立った崖になっている部分もあるだろう。大人でも危険なんだ、子どもなら迷ってしまい過って転落してしまう事もあるだろうな。おまえさんぐらい山に慣れていればあれだがな。けど、真面目な娘だったのに、何故森に一人で出かけてしまったんだろうな」
 「そうだったんですか。その娘さんって、もしかして15歳前後の女の子ですか?」
 「確かにそれぐらいだったんな。どうしたんだ?さっきから娘の事を聞いてくるが、おまえさんも知り合いだったのか?」
 「いえ、もしかしたら会った事ある人かなって思っただけです。ありがとうございます」


 矢鏡は不審に思われる前にと、店主に頭を下げてその場から立ち去る事にした。
 やはり、あの時に見たのは村の娘だった。けれど、娘は事故死した事になっている。あんなにも大人が一緒に居たのに、どうして嘘をついているのか。
 と、考えて投身させたのだから、偽るのは当たり前だなっと考えを改める。


 店先を出た矢鏡は、頭上から降ってくるきたものを浴びて目を顰めた。


 「まぶしい」


 矢鏡を出迎えたのは、雲の合間から顔をだした白く光りを放つ太陽の姿だった。
 もう何か月ぶりだろうか。天から雨粒が降り注ぐこともなく、その代わりに温かい光が落ちてくる。
 太陽もこの時を待っていたかというように、ギラギラと強く光っている。
 待ちに待った太陽の光りに、村人たちは立ち止まったり家から出てきたりしながら、天を仰いでいる。その表情はどこか晴れ晴れとしており、太陽と同じように明るい。


 けれど、矢鏡は何故か温かさを感じても、笑える事など出来なかった。