十一、





 崖から飛び降りたはずの白無垢の女性はどこへ向かったのか。

 死んでいなかったとしても、白無垢や肌着などは全て落ちていた。裸で逃げたわけもないだろう。それに、血だまりもあったので、生きていたはずもないが、もし生きていたとしても負傷していたはずだ。そうなれば、逃げた時に血痕が落ちるはずだ。それらしき跡も川瀬には落ちてなかった。

 そうなると、どこに行ったのか。
 矢鏡はふつふつと疑問だけが湧き上がってくるのを感じる。



 川から水だけを小屋に運び、小屋に帰ったが、それでもすっきりとしない気持ちに襲われる。
 あの異様な光景と、全てを呪いながら死んでいった女の顔が頭に焼き付いて離れないのだ。



 今日は狩りをしても、集中できない。失敗するだけだと思い、矢鏡はしっかりと頭巾を締めた後に村へと降りる事にした。買うものはない。けれど、あの白無垢の女と神官たちの行列の事を知っている人がいないのか、聞き込みをしようと思ったのだ。
 どうしても、気になってしまって何も手がつかないのだから、知る事以外に解決策はないと考えたのだ。



 小雨の降る中、また笠を被りながら村に降りる。
 普段通りに店などはやっているが、どことなく暗い雰囲気を感じた。それは、疑心を感じてしまっている矢鏡の問題なのかと自身でも感じていたが、よく肉を買ってくれる店主の話を聞いて、勘違いではない事がわかった。


 「雨の中、狩りをしてきたのか?今日は随分疲れているんだな」
 「いや、狩りはしてきていないんだが。なんだか、今日は街に活気がないんじゃないか?静かなように感じるから気になってな」
 「あぁ。それはそうだろう。お寺さんとこの娘さんが今朝方亡くなったそうだよ」
 「え………」
 「可愛らしくて、愛嬌もあってな。私も毎日のように挨拶をしていたから。凄く残念だよ」


 店の男は眉を下げて、大きくため息をつきながらそう話してくれる。
 矢鏡は「そうだったのか」と返事をしながらも、驚きを隠せなかった。やはり村の娘が亡くなっていたのだ。では、あの嫁入り行列にいた者たちは寺の娘だったのだろうか。だとしたら、何故崖から飛び降りるよう仕向けたのか。全く持って理解が出来ない。