新幹線の中でも、「疲れたから寝る」と言って、珍しがった行きとは打って変わって、目を閉じてしまった。
そんな矢鏡の手を、紅月はずっと握りしめていた。
少しだけ、温かくなった手。けれど、自分が手を離してしまえば冷たくなり、氷りのように溶けてなくなってしまうのではないか。それが心配で仕方がなかった。
「矢鏡様。先ほどのおばあさんが話していた事、教えていただけませんか?」
家に戻って来た頃には、雨足はさらに激しさを増しており、大雨洪水警報が出るのではないかと思われるほど強くなっていた。すっかり体も冷え切っているだろうと、紅月は温かい緑茶を矢鏡に作り、テーブルに置きながらそう彼に問いかけた。
「そうだな。紅月には話しておいた方がいいな。夫婦なのだから」
お茶を一口飲んだ後、息を吐くように矢鏡はそう言った。
それに対して、紅月は「はい」と、まっすぐとした視線のままで返事をすると、夫婦という言葉を出せば照れるだろうと思っていたのか、矢鏡は少しばかり驚いたように目を見開いた。
けれど、すぐに嬉しそうに口元を緩ませて微笑んだ。
「隠し事はダメだからな。……ちなみに、紅月の嘘とやらはいつ教えてくれるのだ?」
「それは……」
夫婦になるにあたり紅月が矢鏡に提示した条件。嘘をついている事を許して欲しいというものだ。
それを出されてしまうと、紅月は何も出来ない。
今、彼にそれを教えて事など出来ないのだから。
「悪い。冗談だ。俺が知るようになるまで待っている」
「……すみません」
「そういう約束だからな、気にするな。それでは、俺の話をしようか。俺と蛇神の話、を」
紅月の嘘。
それがバレてしまったら。そんな事を考えながら「ごめんなさい」と何度も心の中で彼に謝り続けていた。
この場所がもし矢鏡神社だったら、全てお見通しだったのだろうか。神社で話を聞かなくてよかった。
そんな風に思いながら、紅月は彼の話に耳を傾けた。