けれど、紅月と矢鏡事情を少しずつ知るうちに、情がわいてきた。
 当たり前だろう。昔から想いあっている2人が神様と人間という立場になりながらも、必死にお互いを守ろうとしているのだ。これほどまでに身分が違う恋があるだろうか。

 紅月を守れない矢鏡にイライラもしたし、自分の命と引き換えに男を守ろうとうする紅月にも呆れてしまう部分もあった。それでも、賢明に守ろうとする2人を、肇は応援したいと思うようになっていた。


 「紅月ちゃん、矢鏡様。今は2人で一緒にいるんだよね?」


 その問い掛けに答えるように、どこからか紅月の香りが漂ってきた。
 肇は、一度2人に向かって目を瞑っった後、ゆっくりとその場から立ちあがった。
 玄関に向かい、靴入れの扉を開く。すると、そこには、茶封筒があった。中を確認すると札束が1つ入っていた。紅月との約束のお金だ。

 そのお金をじっと見つめたあと。
 持っていたカバンの中に入れ、そのまま部屋から立ち去った。





 その数年後。
 匿名の寄付により、矢鏡神社が再建さえ、新しく生まれ変わった事を、矢鏡と紅月はその時はまだ知らなかった。

 その時は。


 人間と神様の恋の物語。
 それは、後々にまで神に語り継がれ、いつしか人間にも伝わっていった。