聞き覚えのあるゆったりとした貫禄のある声。
つい最近、耳にしたものだ。
誰だ?矢鏡は朦朧としながらも考えてみたいが、どうも頭が働かない。
「オマエハ、龍神ッ!」
龍神?
あぁ。矢鏡が呪いの事で相談した神だ。
「随分面白い事になっているね。本当に人間の神を見ていると、いろいろ事件があって退屈にならない」
「りゅ、………じん?」
「あぁ。可哀そうに怪我をしているね。けれど、契約を結んでしまったのならば、私は助けられない。けれど、少しおまえはやりすぎだね、蛇」
声に明るさがあったのは途中までで、最後はとても冷たく怒気が含まれたものだった。視線を向けられた蛇神が怯んでいる。龍神は全国から参拝者が多く訪れる人気の神社の神様だ。1つの小さな村の人間達だけが参拝者である蛇神とは全くもって規模が違うのだ。そうなれば、持っている力も龍神の方が格段に強い。
それを龍神を見ただけで蛇神も理解したのだろう。先ほどの勢いはなく、言葉も発せなくなっている。
「人間を食べる事も許されないが、神の魂を喰おうなんてよく考えたね。同じ神として、その行いは黙ってみているわけにはいかない」
「ニ、人間ガ勝手ニ俺ニ人ヲ捧ゲ物トシタンダ。ダカラ………」
「けれど、自分から人間と契約を結び、人間を喰い最後には魂まで食うと約束したそうじゃないか?それは本当なのか?」
「ソ、ソレハ……」
「その様子だと、本当のようだね。だが、それしてはいけない行いだ。禁忌を犯した神を黙って見過ごすわけにはいかない」
「ナ、何故ダ!?勝手ニ神ニシタ挙句、人間ヲ捧ゲタノハ、人間デハナイカ!」
「だからと言って、願いを叶える力もなく神として生きて甘い汁を啜っていきたのだろう。それは、もう終わりだ」
そう言い終わると、龍神は手の平を胸の前に持っていく。すると、そこに水が現れ透明な水の球に変わる。その水球を蛇神に向かって投げる。すると、その水球はどんどん大きくなり、蛇神はその巨大な水球にすっぽりと入ってしまった。
「ナ、何ヲスルッ!離セ!」
「水牢だよ。暴れても君ぐらいの力では到底壊す事は出来ないだろう。蛇なんだ、少しぐらい水の中にいてもしななだろう?処分は神々の会議で決めるよ」
「何故ダ!神ノ私ガ何故コンナ扱イヲサレルノダ!」
「それは、あとでゆっくり話してあげる。だから、今は、黙れ」
「ッッ」
笑顔のまま低い声でそう命令する。すると、あまりの恐ろしさと迫力から、蛇神はもう言葉を発することは出来なくなった。自分より力がある神を怒らせるとどうなるのか。その声と龍神から発せられる力の雰囲気で理解したのだろう。



