「オマエガ痛メテクレタ、コノ傷。ズット痛ムノダヨ。鏡ト言ウノハ傷ヲツケタ場所ヲ修復サセテクナイヨウデナ。……人間ハ姑息ナマネヲシテクレルモノダ」
 「人間を食べようとした、おまえが悪い」
 「人間ガ勝手ニ捧ゲタモノヲ喰ッテ何ガ悪イ?コノ世デ生キテ腹ガ減ッタラ食ベル。ソノ弱肉強食ノ世界ヲ勝手ニ変エヨウトシテ、人間ヲ食ベルモノハ悪トシタノハ人間ノ考エデアル。私ハ悪クナイ」
 「だったら、俺がおまえを傷つけたのも悪くないはずだ」
 「フンッ。私ニ食ベラレルト言ウノニヨク吠エルナ。ソンナ悪態モ、コレデオシマイダ」
 「………これは私が守りたいものを守る方法なのだ。オマエに食べられるのにではない。助けるのだ」
 「……バカナ人間ノ神ダナ。本当ニ助カルト思ッテイルノカ?」
 「な……に?」


 ヒヒヒッと笑いながら、意味ありげな言葉を残す。
 矢鏡が問いかける前に、蛇神は長い体の先で、紅月の体に触れる。そこには心臓がある場所だ。そこに白い鱗が触れると、彼女の心臓から真っ黒な大蛇が飛び出してくる。もちろん生きているものではない。呪いに使われた蛇なのだろう。巨大な蛇神を見ると、一目散んに家から飛び出していった。


 「コレデ女ノ呪イハナクナッタ」


 矢鏡はすぐに紅月の様子を確認する。
 呪いは確かに彼女の体から無くなっているのはわかる。けれど、紅月の容態は変わらず辛そうなままで、荒い呼吸を繰り返し、顔色は青白く、朦朧とした様子でこちらを見ている。
 呪いがなくなったとは到底考えられない状態だ。


 「彼女の様子がおかしいままだ!どういうことだ?」
 「当タリ前ダロウ?呪イデ体ガ痛ンデイルノダ。今、呪イガナクナッタ所デコノ女ガ死ヌコトニ変ワリハナイノダカラナ」」
 「なんだ、とっ!………貴様、俺を騙したなっ!?」
 「騙シテナドイナイ。呪イハシッカリト消シタ。アノ女ハ死ヌガ、今度コソ記憶ヲ無クシ、呪イトハ関係ノナイ普通ノ人間トシテ生マレ変ワルノダロウ」
 「だが………」