「だめ、ですっ……」
 「紅月……」


 あまりの痛みに気を失っていたと思っていた紅月が目を開けて、こちらを向いていた。懇願するように、目を大きく開けて体を動かすのでさえも苦しいはずなのに、必死に腕を上げようとしている。

 こんな話を彼女に聞かせてしまっては、止めるに決まっているとわかっていた。
 けれど、こんな機会を逃すわけにはいかないのだ。こうでもしないと彼女を助けられはしないのだから。

 「悪い……。おまえが必死に守ってきてくれた矢鏡神社を結局亡くしてしまう」
 「違います。……私は左京様に会いたかったから、ずっと見守っていてほしかったから……」
 「それは俺も同じだよ。おまえには、生きてほしいのだ。……だから、次は俺の番だ」
 「……やめてください。そんな事、絶対にしないで………左京様……」
 「ごめん………」


 弱い自分だからどちらか片方しか救えない。
 自分を犠牲にして存在をする神など、神様と呼べるはずもない。愛しい人を助けられない神様にはなりたくない。


 「愛してる。人間だったころも、そして今までもこれらも。おまえだけが好きだ」
 「左京様………。お願いします……やめてくださいっ!そんなこと……」

 最後にギュッと彼女を自分の体全体で感じられるよう抱きしめる。
 そして、離れる直前に触れるだけの口づけを落とした。最後の夫婦の口づけ。
 この時代ではキスともいうのだったな。
 愛しい者へ、愛情を伝える時の行為。
 愛してる。好きです。何よりも大切です。
 ずっと一緒にいたいです。

 それらは、全て左京の願いであった。