二十七、





 「簡単ナ事ダ。女ノ代ワリニオマエノ魂ヲ喰ワセロ」
 「俺の………?」
 「神ハ食ベタコトガナイ。キット旨イイダロウナ、ト思ッテイタ。オマエハ女ヲ助ケタイ。俺ハ女ヲ諦メル。イイ条件ダト思ワナイカ」


 神が人間を食べるとどうなるのかはわからない。ただ神の腹を満たすだけかもしれない。けれど、神を喰えばきっとその神が持っていた力さえもその神の力になるはずだ。
 そして、魂ごと食べられた神の方は存在がなくなり、そして神社を参拝していた人間もその神を忘れ、廃神社となるのだ。

 優月が必死に守ってくれていた、この魂。そして、神社。それらをこの蛇神のせいでなくなってしまう。それは、とても心苦しい。
 けれど、優月を守れるならば。自分の存在など、どうとでもなればいい。それに、優月が矢鏡を思って泣く事もなくなるのだ。
 矢鏡の魂の消滅により、矢鏡神社の事を忘れてしまうのだから。そして、左京の事も。

 そうなれば、優月は死んで神となってしまった左京を忘れ、人間として生きられるだろうか。
 蛇神の呪いもなく、苦しまずに長い人生を過ごせるのではないか。

 矢鏡自身も存在も消えてしまえば、人間の頃の思い出も、彼女への愛しい気持ちさえも、全てなくなってしまうのだから。


 「………あぁ。いい条件だ」
 「ソウ言ウイウト思ッタヨ」


 蛇神はねっとりとした笑みを含んだ声で矢鏡の返事に満足したようだった。
 自分はとんでもない契約をしてしまったのかもしれない。そう思ってももう後にはひけないのだ。
 紅月は自分には沢山の力があると言ってくれた。けれど、目の前に居る煙の蛇神の化身、呪いはとても異質な力を放っていた。恨みや妬みの集合体とでもいうのだろうか。それほど、蛇神は矢鏡に殺された事を怨んでいるのだろう。
 その力は、矢鏡の力では到底およばないものだと、肌で感じられた。