「涼介、出て来いよ。まだいるんだろう?」
裕次が声をかけたほう…
反対側の、体育館倉庫の角から涼介が姿をだした。
「……俺は浅草なんて行かねぇからな…」
「それは困る。良子ちゃんと約束しちゃったからね…」
「……俺がいるってどうして分かった?」
涼介の問いかけに、裕次がフッと笑みを浮かべる。
「俺が、あの場に出て行く瞬間、角からお前の姿がチラッと見えた。
俺が出て行かなかったら、お前が出て行った…。
違うか?」
「………」
「初めから全部、会話を聞いていたんだろう?
立ち聞きなんていい趣味を持ってるな」
皮肉っぽく言う裕次に、涼介は反論する。
「それはお前も同じだろ…」
「良子ちゃんって面白い子だと思わないか?
あんな女の子、初めて会ったよ。
お前も、良子ちゃんに興味を持ち始めている。
彼女といるときのお前は、いい意味でお前らしくないからな。
今だって、彼女が心配でここまで着いてきてしまった。
そうだろ?」
「………」
「ダンマリを決め込むってことは肯定しているのか?
お前はいつもそうだ。
肝心なところでいつも逃げ腰になる。
また、いつものように俺に譲ってくれるのか?」
裕次は、挑発するような眼差しを涼介にむけた。
「…譲るも何も、アイツは物じゃない。
それはさっき、アイツ自身が言っていたことだ」
「そうだな…。
でも、お前がいつまでもそんな態度でいるというのなら、俺はお前の存在を気にせずに、俺の好きな通りにさせてもらうからな」
「…勝手にしろよ」
「本当に勝手にするぞ?」
確認するような物言いの裕次に対して、涼介からの返答がなかったので、裕次は続けて言った。
「勝手にしていいってことは…
お前、本当に浅草にも行かなくていいだな?」
───…………