瑠璃、翡翠、琥珀、真珠――ガラス瓶に眠るこんぺいとう、あめ、らむね、ぐみの鉱石菓子。それからラムネ、レモンソーダ、ハッカ水。ゆらゆらと揺れる水面。試飲もできるようになっており、まだどこか信じられないでいる。こんなにわくわくどきどき心が騒ぐのに、終わってしまうなんて夏祭りみたいだと思った。



 ちりん、ちりん。



 心にまで響く涼やかな風鈴の音。


 確か店の出入り口にあった……夏椿を模した風鈴がひとつ、飾りつけられていた。そこまで記憶をたどり――そこから先は、よく覚えていない。






 いつの間にか空には星が灯っている。先程まで空は晴れ渡っていた、はず。納得はいかないものの、どうしようもない事実が目の前にある。


 ふと手にしてる本に気がつく。大切そうに持っているそれを、そっと開いてみる。


 さまざまなアングルから撮られた夏椿が載っているただ、それだけだった。花の表情をその瞬間その瞬間切り取られていて、狂おしいほどこの花がすきなんだって伝わってくるひしひしと。


「同じ庭で、同じ花をずっと……。あれ僕は、誰に何を聞きたかったんだろう……?」


 ここには何もない。でも微かに香る儚くあまい夏椿の……。


 誰かのさみしそうな笑顔。


 誰かの……。