リトルソング-最強総長は歌姫を独占したい-

「俺たちが生まれるほんの少し前、この街は壊れていた」


目を逸らさないまま、彼は語り始めた。

言葉が直接頭に響いてくるみたいで、ぞくぞくする。


「暴走族、ヤクザ、犯罪者や薬に手を出した奴……俗に言う社会の底辺がわんさかいて、秩序なんてものは、この街には一切無かった」


そういえば、聞いたことがある。

お父さんが若い頃のこの街は、今と比べ物にならないくらい治安が悪かったって。


「当然サツもお手上げ。ごまんといる社会の違法者を取り締まることなんて、不可能だからな」


何事なく生きてこれたのが奇跡!なんて笑ってたっけ。


「けどある日…ある男の手によって、全てが変わった」


取り囲むように座る幹部たちも耳を傾けている。

しかし、そんな中私は。


「圧倒的な強さと統率力。器量の深さとカリスマ性。
全部を持ち合わせたその男は、1年と足らない内にこの街を支配した」


睦斗と目が合って心臓飛び出そうになっているのを必死に抑えておりました。

しかしそのドキドキは、次の言葉でかき消される。



「その男こそが“風神”3代目総長、安西雷人。後に伝説の総長と謳われる男だ」

「うぇっ…!?」



総長?

ちょっと、摩訶不思議なことを言い出すから変な声が出ちゃったじゃんか。

……フウジン3代目総長・安西雷人?

『総長』ってことは、族の長。

つまり、お父さんは暴走族のトップだったの!?


「この街を支配した3代目は、秩序を取り戻した」


嘘だウソだうそだ!よりによってウチのお父さんが!?


「そして3代目が引退した後、残った奴らは安西雷人に敬意を込めて、“風神”を“雷神”に改名した」


だってお父さんはご近所でも有名な良い人だよ?

いや、でも確かに昔のお父さんの写真見たら、髪は茶髪に染めてたしなんか特攻服みたいなの着てたかも……。

喧嘩が強いし“売られた喧嘩は必ず買う”が座右の銘で、お友達はみんな元ヤンぽいし、実際お父さんの背中には切り傷みたいなのがある。

怒ったら般若みたいになって手がつけられないけど、バイクが大好きでそれ以上にお母さんが好き。


「それ以来族や組……どんな荒くれ者も、この街には手を出さなくなった」


あれ?今上げたお父さんの特徴って、ほぼヤンキーじゃん。

マトモなのバイクが好きっていうのと『お母さんが好き』ってとこだけ?


「そして俺が……雷神の11代目総長だ」


あっ、そう言えば、お父さんの名前(雷人)を音読みにしたら“ライジン”じゃん!!

いや、この考えは安易だけど、認めるしかないのか。

お父さんは暴走族のてっぺんとってたのか!

でも、でも──


「嘘だぁーー!!!」


猛烈な勢いで直立し、頭を抱えた。