「優凛、大丈夫?顔が真っ白……」

「あ、いえ大丈夫でござんす……続けてくだせえ」


ヤバイ、突然の新事実に顔どころか頭真っ白になりかけた。


「え……うん。それで、あんまりにも綺麗な声で歌が巧いから、みんなその人のことを“歌姫”って呼ぶようになったの」

「歌、姫……?」

「だって屋上で歌ってるってことは、雷神の人たちから許しをもらってるってことでしょ?
だからみんな、その人のことを雷神の姫で歌の天才……つまり歌姫だと思ってるの」

「姫ってつまり、雷神にとって特別な女の子ってこと?」

「うん」


ダメだ、信じられない。

総長から命令ばっかりされて、サルから罵られ、他の人からは痛いくらいの冷たい視線を浴びせられる私が姫!?

雷神の──姫ぇ!!?


「それで、ちょっと思ったんだけど。
優凛最初のころギター持って来てたでしょ?だからもしかしたら優凛が…」

「違う!」


発した声の大きさに、自分自身が一番驚いた。


「えっ…?」


びっくりして肩をすくめるココ。


「あ…いや……あれは軽音部入ろうと思ったけど、思ってたのと違っててあれ以来持ってきてないんだ、あはは……ハッ!?」


ふと、言葉が中途半端に止まってしまう。

その理由は背中に走る悪寒。

誰かに睨まれてる気がする。


──チラリ。


恐る恐る見上げた先に──悪寒の正体がいた。

私を震え上がらせた正体。

それは屋上から覗く6つの影。

あれはどう考えても雷神の皆さんの頭ですよね?

顔は逆光で見えないけど、ものすんごい視線を送られ続けてる気がする!

屋上から睨まれて視線感じるとか、どんな威力の眼力持ってんのよ!



「ごっごめんココ!急用出来た!」

「えっ…?」


そして薄情にも、小心者の私はココを置いて中庭を駆けだした。