side 優凛


1番目のサビを歌い終えた頃だった。


──ユラリ。


視界の隅で誰かが立ち上がる。

それは落ち込んで放心状態だったはずのリキさんだった。

彼は大きく息を吸い込むと、ピタリと動きを止めた。

そして。


「……演奏中止ーっ!」


彼はいきなり雄叫びを上げた。


「ぎょえっ!!?」


びっくりして言葉の意味が分かる前に音を止めた。


「璃輝!?」

「璃輝さん!?」


みんなに注目されている彼の顔は怒ってるみたい。

顔の至るとこにシワが寄ってるから……う、梅干しみたい。

ダメだ笑うな優凛!


「お前……さっきから聴いてりゃ……」


余計なこと考えてると、大きい目で鋭い視線を浴びせられる。


「勝手に人の心に刺さる曲歌いやがって……てめえ!──」


……心に刺さる?

そっか、そう思うんだ。やっぱり選曲ミスだったのかな。

失恋で心を痛めてるリキさんに、率直に失恋した苦しい気持ちを歌ってるこの曲は、あまりにも酷だったのかもしれない。

だったら謝らないと。


「ごっ、ごめんなさ……」

「上手すぎて文句言えねえんだよ、この野郎!」


え?……何?めちゃ怖い顔して、褒められた?

何これ、こんな心臓に悪い褒められ方初めてなんですけど。

でも、怒ってるのかと思ったリキさんの顔は、なんだかすっきりしていた。

キラキラしてて、吹っ切れたって感じ。


「璃輝、大丈夫か?」


総長さんが呼びかけるとリキさんは元気よく反応する。


「おう、なんだよ睦斗!」

「……復活したな」

「ハッ!こんなことで落ち込む俺じゃねえーっての!」


ガハハーと大口で笑うリキさん。

元気になってなによりなんだけど──


「…今まで落ち込んでたろ」


ですよね。オウタさんが代わりにツッコんでくれた。


「ああ!?」

「ああ?じゃねえし。せっかくいい感じだったのに、優凛ちゃん歌うのやめちゃったしさー」


確かに途中で歌うのやめちゃっただけど、今更歌ってもね。


「歌ってよ。俺、優凛ちゃんの歌好きだから」

「っ……!」


無意識に気持ちが高ぶる。

オウタさん、その褒め言葉はアカンよ。

お世辞でも嬉しい!


「分かりました歌います!」


単純すぎる私は、口車に乗せられて再び歌い出した。

けどしばらくして──



「……やっぱやめろぉ!胸が痛いぃ!」


リキさんが涙ぐみながら私に訴えてきた。

その様子を見て「やっぱ立ち直ってねえじゃん」と笑うみんな。

優しかったりいたずらっぽかったり、微笑んでたり嬉しそうだったり──優しい顔。

その様子を見ていたら歌ってよかったと私も笑えた。