リトルソング-最強総長は歌姫を独占したい-

あれは葬儀が終わった後のこと。

降り続ける雨の中で、姉ちゃんはふらりと傘も差さずに外に出た。

姉ちゃんはその日も泣かなくて、何を考えているのか分からなくて──不安になった俺は、後を追って声をかけた。


『姉ちゃん!どうしたの?』


ふらふらと歩く後ろ姿は小さくて、今にも消えてしまいそうだった。


『姉ちゃん……ねえ、聞いてる?』

『……見える?』

『え?』

『私……泣いてるように見える?』


雨に打たれて、空を見上げて、ぼんやりと呟く。

そして、俺に教えてくれた。


『おかしいなあ……すごく悲しいんだ。
でも悲しいのに、涙が出ないの』


灰色が広がる空を仰いで、ぽつりと胸の内を。


『私が泣いてたら、みんなね、お母さんがいないことがいけないみたいに言うんだ。
みんな私の事可哀想って言うの。
あの子は可哀想な子だから関わらない方がいいよって、友達に言われちゃった』

『え……?』

『だからかな……泣いちゃいけないって思うと、悲しいって気持ちが薄れていくの。
全部真っ白になるの』


それが始まりだった。

姉ちゃんが感情を無くした始まり。


『あれ?……ねえ、達綺』


不意に姉ちゃんは空を見上げるのをやめて、俺と顔を合わせた。

それから静かに、笑った。


『悲しいって、なんだっけ?』



それが無くした感情。

悲しみが深すぎるゆえに、自らが消去した心の一部。


『もう……分かんなくなっちゃった』


笑う姿は痛々しくて、今でも脳裏に焼き付いてる。

その日からだ。

姉ちゃんが変わったのは、その雨の日からだ。