「で、どこの病室なんすか、桜汰さん?」

「210だって。可愛い看護師さんが教えてくれたじゃん」

「お前な……今日は見舞いに来たんだぞ。なあ、睦斗」

「あ?そうだけど……なんでお前らついて来たんだよ。邪魔だろうが」


そんな時、ふと耳を刺激する人の声。


「何言ってんだよ睦斗!独りで行動してたら危ないだろ!?」

「璃輝……お前は俺の保護者か」


こっちに向かってくるそれに反応出来ない。

そんな余裕すら、私に残っていないんだ。

例えそれが愛しい人だとしても、今は顔を合わせることも辛い。


「優凛……こっちおいで。外に行こう」


お父さんはその雑音の正体に気づいたのか、私の肩に触れて外に出そうと促す。

私は誘導されるがまま、達綺に背を向けて、足を引きずるように歩き出した。


「……姉ちゃん…」


ごめんね達綺。

いつもへらへらしてて気がつかなかったよ。

苦しんでたんだね。悩んでたんだよね。


ざわざわ、心が波立つ。

耳鳴りとともにあの人たちの声が近くなる。


「優凛?」


そしてついに病室の出入り口で、彼と鉢合わせた。

睦斗と、雷神たち。

目は合わせられないけど、確かに彼らがここにいる。

会いたくなかった。

今の私は、あなたたちの知っている私じゃないから。


「優凛……行こう。お前ら通してくれ」


お父さんは肩に手を回して、私を室外へ誘う。


「……何があった?」

「睦斗」


呼びかける睦斗に、お父さんは来るな、と無言で圧力をかける。 

張りつめたその様子に勘づいたのか、それ以上は誰も何も言わなかった。