歌にしか取り柄のなかった私に、奇跡が起こった。

それは突然、光のように。

私に手を差し伸べたのは、私の大事な人。

大切なものは全部、あの人が教えてくれた。


だからもう迷わない。

最初から答えなんてひとつしかなかったんだ。



「答えを……聞かせてください」


あの駅前、あのビル、あの景色。

以前見たここからの眺めはどこか寂しくて、独りを思わせるものがあった。

でも、もう大丈夫。私は独りじゃない。


私は、以前訪ねた清水プロダクションの事務所にいる。

今日はこの2人のために私の意志を伝える為に来た。

黒川さんは一語一句逃さないように言葉を発し、最終決断を迫る。

レオンも固唾を飲んで瞳に私を映す。


「歌手になりますか?」


歌手になるなんて、今まで考えてもなかった。

この駅前で歌うまで、レオンに会うまで。

それに歌手になるってことは、お母さんに恩返しができるんだ。


「あなたの答えを、教えてください」


だから、決めたんだ。

譲れないただひとつの答え。


「私は……」


いつも逃げてた、いつも怯えてた。

しっかりした自分を保てなくて、いい加減なことばかり。

もう、そんな自分はやめるよ。

答えを導き出そう。

たとえそれが、誰かを傷つける形になったとしても。


「私は事務所に入ります。歌手になります」