「難しい話だよ。大人でも葛藤を強いられる」

「じゃあ、どうしたらいいの?」


尋ねると、お父さんは深くため息をついて、私と目を合わせた。

いつになくまっすぐな眼差しだった。


「そうだな……優凛ならどうする?」


私が、那智の立場だったら?

苦しくて、怖くて、誰にも言えなくて、きっと孤独を感じる。

誰かに助けてほしいと、心の中で叫んでる。


「よく考えてごらん。優凛にとって一番大事なものは何か」


大事なもの?


「優凛が一番大切にしたい人は誰だ?」


大切にしたい人──たくさんいるよ。

お父さん、達綺、ココ、雷神のみんな。睦斗、那智。

この中で、一番って誰?

例えば、お父さんの一番はお母さん。

じゃあ、私の一番は……?


「大丈夫、優凛なら間違えない。
優凛は……俺と夢の、宝物だから」


そうだ。ずっと心の中では分かってた。

大事なもの、大切にしたい人。


「……ありがとうお父さん。私、もう迷わないよ」


怖がってちゃ何も始まらない。

迷うなら、動かなきゃ。