「ただいまー」


空気が張り詰めたと感じた時、新たな来客がそれを破った。


「那智、風邪薬ってこれでいいの……って睦斗?」


那智のお姉さん、スミカさんだ。

彼女を見ると、睦斗が私の腕を引いて立ち上がらせた。

何も言わず、ただ強く力を込めて。

何を感じて何を考えているのかは、読み取れなかった。


「もう帰るの?ヒマだからいてくれるとありがたいんだけど」

「……那智、寝かせてやってくれ。邪魔した」


冷静さを装いながら、睦斗は玄関の方に足を向けた。


「あら、残念。またね」


靴を履いて、何事もなかったように那智の家を去る。

……また、なんて日。

私たちに明るく訪れるだろうか。