「くっ……!」

「那智!?」


しかしふらついた那智はその手を離して体勢を崩す。

熱を帯びた体温が遠ざかっていく。


「那智!?」


時を同じくして、睦斗が帰ってきた。


「無理すんな。お前は寝てろ」


すぐに那智に肩を貸そうとするけれど、那智は差しのべられた手を振り払った。

その時、私は感じた。

私はここに来てはいけなかったのだと。

那智のその目は、夕闇の中見たあの眼をしていた。


「……那智?」

「……優しくすんな、俺に構うなよ」


うなだれながら、消え入りそうな声が那智から聞こえた


「分かってんだろ睦斗。いい加減、お前だったら分かるよな?」

「……」

「俺が、嘘ついてることくらい……。
けど、もう限界だ。俺には無理だ……」



睦斗は振り払われた手を、もう一度伸ばすことなく、力なく下ろした。


「優凛……」


すると那智が私を呼んだ。

今までで一番か細くて、痛いくらい優しく、那智が私の名を口に出した。




「お前が好きだ……。
この気持ちは、嘘じゃねえ」



そしてもう一度、今度ははっきりと私の目を見て、自ら想いを吐き出した。

苦しそうに笑って、私だけを見て。

揺れる瞳は、私の心を激しく揺らして。