「行こう?」


何事もなかったように私の手に自分の手を重ねる睦斗。

……私はやっぱり、この人じゃなきゃダメだ。

この腕で、この手で、このあたたかさじゃないと、心が安らぐことはない。


ねえ、那智。

私は、睦斗しか好きになれないよ。

あなたの想いに応えることは、一生できない。






その後は、楽しみにしていた旅館の食事もろくに口にできなかった。

複雑な感情が渦巻いて、ずっと頭痛がしていた。


翌日も何をしたのか覚えていない。

楽しかったのは確かなのに、記憶に残っていない。


そうして曖昧な記憶を携え、7月を終えた。