親父が、死んだ。

死因は言われるまでもなく、過労死。

休むヒマなく体を酷使した結果、呆気なく親父はこの世を去った。


娯楽と快楽のために伴侶という犠牲を(いと)わず、親父が死んでも尚、金で遊ぶ女。

最終的には蒸発したのか、一切俺の前に現れることはなくなった。

幸い、親父俺たちのために遺した財産には手を出してなかったから、なんとかここまで生きてこられた。

憎しみと恨むを胸に、癒えない傷を抱えて、俺は今を淡々と生きていた。


そのせいか、俺は2つのものが嫌いになった。

ひとつは嘘と、もうひとつはこの言葉。

“好き”。

これは俺にとって、最も憎らしく忌み嫌うものとなった。

だから当然、自分から口に出すつもりは露ほどもなかった。

今日、この日までは。