side 那智


言葉にするつもりはなかった。

この言葉、大嫌いだったのに。

でもお前の前では、想いを言わざるを得ねえんだよ。

例え、全てが壊れることになったとしても。



自分の名が大嫌いだった。

死ぬほど憎くて嫌いだった。


『那智、大好きよ』


あの女に名付けられた俺の名前。

あの女がよく言ってたこの嘘まみれの言葉。

どっちも気が狂いそうなほど嫌気がさす。

母として最低で、人間として腐ってる(いや)しい女。


親父は、そんな奴に騙され続けてたんだ。

汗水流してあの女のために働いて、金を貢いでた。

その金で遊び呆けているとも知らず。

親父が夜勤で帰らない夜は、男を連れ込み酒に溺れては女の声で喘ぐ。

それ以外は滅多に帰宅することもなく、帰ってくるのは親父に金をせがむ時だけ。


そんな生活が続いたある日、事件は起こった。