リトルソング-最強総長は歌姫を独占したい-

「親父を殺して、のうのうと生きてるクソ女」


自分のお母さんを、那智は憎悪を込めて中傷する。

それほどまで母親が憎いの?

お父さんを殺したって、どういうこと?


「……反吐が出る。あの女も、あんな奴を選んだ親父も、あの女を信じていた俺自身も」


謎が謎を呼んで、自分さえ誹謗(ひぼう)する那智が居たたまれなくなって、私は沈黙を破った。


「なんで……?」


どうして、自分を責めるような言い方なの?


「何もできねえからだよ。ただの独りよがりで、強がってるだけだ」


問いかけに答えを導き出した那智は、眉根にしわを寄せてうつむいた。


「誰にも必要とされねえくせに、粋がって……何がしてえんだろうな」


そんなことない。

那智は要らない存在なんかじゃない。

だから、切ない表情はやめて。

苦しいよ、心が痛いよ。


「今も、ずっと分からないままでいるんだ」


ぽつりと漏らしたのを区切りに、那智は深くため息をついて、顔を伏せた。

那智は、ずっと悩んでたんだ。

自分の存在意義を、ここに生きる意味を。

でもね、那智。

最初から自分が何者だなんて分かってる人はいないんだよ?

私も、今でも自分が分からないことだってある。



「…分からないままでいいんだよ」


だから、思いを伝えよう。

さっきの睦斗と同じセリフで、那智を救ってあげたい。


「だって那智は独りじゃから」



精一杯の優しさを、彼に届けよう。