リトルソング-最強総長は歌姫を独占したい-

「ねえ、那智」

「……んだよ」


那智は空を見上げたまま、私の声に反応する。


「いっこ、聞いてもいい?」

「言えば?お前の聞きたいことは大体分かる
それに今なら、答えてやれる気がするから」


次第に闇色を広げる空から視線を外して、那智はその瞳に私を映した。

……私もそう思っていたんだ。

今ならこの問いに、那智は答えてくれると思ってた。

だから言うよ。



「……那智。あなたの過去に、何があったの?」


いつかは、触れることすら困難だったこの気持ち。

今は、あなたの心に触れてもいいですか?



「……分からない」


しばらくの沈黙が続いた後、那智が重い口を開いた。


「俺自身でも、分からない」


曖昧に目を伏せて、静かな声で零した。


「何が本当で、何が嘘なのか」


私は透きとおるような横顔を、瞬きもせずに見つめていた。


「なんで親父が死んで、あの女が生きてるのか」

「……あの女?」

「……母親だ」


ついに那智は、固く閉ざされた記憶を紐解き始めた。

そうか……那智は憎しみを抱きながら、母と言う存在が頭から離れないんだ。

ずっと、どんな時も。


「俺たちにあいつの血が俺に流れてると考えるだけで胸糞悪い。
それほど、俺にとってあの女は忌み嫌う存在だ」


“俺たち”ってことは、那智には兄弟がいるの?

ああ、那智に対して知らないことが多すぎる。