「部屋に戻るぞ」

「は、はい……」

「……あ?なんだその顔」


恥ずかしがってたらもっと距離を縮められた。

だから、近いってば!


「な、なにが?」

「なんで顔が真っ赤なんだよ」

「暑いの!」

「ふーん……」


言い訳しちゃったけど、大半はあんたのせいだ睦斗!

ニヤニヤしながら顔を近づけてくるんじゃない!


「はーいはい、こんなとこでノロケないでもらえる~?」


睦斗のひょんなSっ気に動けないでいたら、桜汰先輩が救い主となってくれた。


「さっさと行こうぜ。時間たっぷりあるんだから、いつでも優凛ちゃん好きにできるだろ?」


……なんか、言ってることはおかしいけど。


「先に行くな、颯ー」

「ああ、悪い」


桜汰先輩の提案に睦斗はやっと私から離れた。

ふう、とため息をついた先。

視線を絡めた颯先輩の瞳が、密かに陰を含んでいたようだった。時刻は17時30分。

楽しいBBQを終えて約2時間が経った。


「……夕食って何時からだろう」


ココと旅館の豪華な客室でまったりしてると、浮かんできた疑問。

いや、食い意地が張ってるんじゃないよ?ただ気になっただけ。


「ねえココ、夕食の時間知ってる?」

「んー、分かんないけど……もしかして、もうお腹空いたの?
優凛いっぱい食べてたのにすごい」

「違うよ、そこまで食欲旺盛じゃないから!変な尊敬の眼差しを向けないで!」


さっきの悠との一件もあってか、私に大食いの肩書きが背負わされたらしい。

納得いかないけど、一度気になりだしたら止まらなくなるのが人の(さが)ってやつ。

ご飯の時間に遅れたりしたら文句言われそうだし。


「でも、確認しておいたほうがいいかもね」

「だよね!じゃあ、ちょっと聞いてくるー」

「はーい、いってらっしゃい」


満面の笑みでお見送りするココ。

こんな奥さんに見送られたら幸せだろうな、とまだ見ぬココの旦那さんを思い浮かべて部屋を出た。