「はぁ、いっぱい食べた~」


ぽんぽんとお腹を叩きながらみんなで旅館へ戻る。


「くそ、俺はまだ食えたってのに……お前食いすぎなんだよ!」

「なんでさ、悠こそお肉取りすぎだったじゃん」

「うっせえ、男と張り合ってんじゃねえよ!そんな食い意地張ってるとデブになるぞ。
睦斗に愛想つかされても知らねーからな!」

「はぁ?鍛えてるから絶対にありえないです〜」


途中、悠が因縁つけてきたので口論になっていると。


「……颯一くん」


渋い深みのある男性の声が、私たちに向けて放たれた。

旅館の玄関口に現れた男性。

黒髪に、上着を脱いだ黒のスーツで、歳は30~40代半ばと見られる。

なんとなく誰かに似てる──そう思ったとき、颯先輩が前に出た。


「お久しぶりです……」

「やあ、元気そうだな」


流れるような仕草で会釈し、彼に近寄っていく先輩。

あ、並んだらよく分かる。

この男の人、颯先輩に似てるんだ。


「本当久々だ、半年ぶりくらいか?」

「そうですね。ご無沙汰してます」


じゃあ、颯先輩のお父さんか?

それにしては、颯先輩の態度は他人行儀だな。


「……優凛、行くぞ」

「え……?」


観察していると、睦斗が視界を遮るように顔を覗いてきた。

わお、なんて綺麗なお肌──じゃなくて!いちいち顔が近いわ!