リトルソング-最強総長は歌姫を独占したい-

それから桜汰先輩の指示に合わせて、食材の下ごしらえをしていった。

手際よく野菜やお肉を調理していく先輩は、まるで一流レストランのオーナーシェフのようだった。

特に、流れるような包丁さばき。

その姿に惚れてしまいそうになったのは──絶対他言できないな。


「桜汰先輩の実家がレストランだったんて、知りませんでした」

「だろうね。俺も優凛ちゃんには話したことなかったかも」

「うん、初耳。
先輩も、将来そういうお仕事に就くんですか?」


「……どうかな?」


ふと、桜汰先輩は手を止めて笑った。

けれどその笑みは本物じゃない。

どこか切ない、作り笑いだった。


「別に継ぐつもりはないし、俺がいなくても、店が潰れるわけじゃないし」

「……」


桜汰先輩から放たれた言葉は力がない。

それは一種の弱音だった。




「……期待されてるのは、俺じゃないから」




初めて見る桜汰先輩がそこにいた。

いつもおちゃらけて、垢抜けてるムードメーカーなのに、そこにいるのは自分を否定する先輩。

その大きな体は、今は少し小さく感じた。