「いえ、その。従僕として、お嬢様と一緒に食事はできません」
「あっ、そうよね。でも、今日はせっかくのお誕生日だから……誰かと一緒に食べたいの」

 お父様は招待客との交流で忙しいし、前世のように誕生日の晩餐を一緒に楽しんでくれる家族や友人がいなくて寂しいのは本当だ。
 だけどなにより、子供らしからぬ態度を貫くアルトバロンに、少しでもこの時間を楽しんでもらいたいというのが本音だった。

「やっぱり、ちょっとわがまますぎるかしら?」
「……いいえ。ですが」

「お嬢様お一人で」と辞退した彼に、私は「じゃあ、これだけ」と言ってドリンクのグラスを手渡す。
 外部からの訪問客に対してだけでなく、私に対する警戒心や緊張で張り詰めているだろうアルトバロンに、心を少しでも解きほぐしてもらいたかったのだ。
 この際、食事は諦める。どうか、あとでいっぱい食べてね。

「ね、とりあえず乾杯しましょ?」
「……わかりました」