あまりの匂いに、イライラを表すように振れる尻尾を、だんだん自制できなくなってくる。

 アルトバロンをこっそりとうかがっていた四人の若い近衛騎士たちは、冷や汗をかきながら、内心震え上がっていた。
 氷の美貌をわずかに歪める黒狼美青年のまとうオーラと、ゆうらりと殺気がほとばしるような尻尾の動きは尋常じゃない。

(毒林檎令嬢の従僕、一人になった途端別人じゃん!? 怖ぇぇ……)
(殺気凄ッ! 虫殺すみたいに人殺してそう……)
(正直俺たちくらい一瞬だろ……)
(ていうか、ここで待つのやめてくれないかな……)

 ディートグリム公爵家の護衛騎士団、しかも副団長代理を表す肩章の付いた軍服姿ということもあいまって、若い近衛騎士たちが受けている威圧感は頂点に達していた。

 そんな時だった。
 アルトバロンの目の前を、アクアマリンのように煌めく蝶が、ひらひらと淡い燐光を振りまきながら通過する。