「我が家に遠慮しなくて大丈夫なのよ? アルトには幼い頃から私の従僕をしてもらっているし、お父様だってアルトを息子みたいに可愛く思っているもの。遠慮せずに学生生活を謳歌してほしいって、お父様も私も願っているわ」

「いいえ、お嬢様。僕はほんのわずかにだって遠慮は(・・・)していませんよ」
「でも……」

 そう言われても、にわかには信じがたい。
 本来の運命ならば、彼は一学年目から学院に入学している。全寮制の寄宿学校は、彼にとって唯一の安らげる場所だったはずだ。

 私はこっそりとアルトバロンの横顔を窺う。

 彼は従僕として一ヶ月の暇を出された時期から、ことさらに勉学に励むようになった。
 まるで手始めと言わんばかりに『時空間魔法理論』を博士号修得レベルまで極めたかと思うと、彼は自分の固有魔法である〝箱庭〟の時間軸を固定した。
 ……つまり弱冠十四歳にして、永遠を作り出してしまったのだ。