ティアベルの護衛には、アルトバロンが従僕になる以前と同様に護衛騎士たちが数人一組で配属されていた。
 その様子を眺めていた瞳の奥で、何かが燻る。

(……羨ましい)

 アルトバロンはティアベルと護衛騎士らの背中を見送りながら、つい口から出そうになった言葉を、慌てて飲み込む。
 言葉になっていたところで、どんどん離れていくティアベルには聞こえなかっただろう。
 けれども、アルトバロンはこの心情に気がつかれてはいけない気がした。

 廊下を角を曲がるところで、こちらを振り返ったティアベルが〝いってきます〟と声にせず唇だけを動かし、ひらひらと手を振る。
 アルトバロンは彼女へ振り返したい衝動を抑え、手を胸に当てて丁寧な礼を返す。

 彼女の微笑みが、真珠色の長い髪が、赤いドレスの裾が、壁の向こうに消える。その後ろに護衛騎士のお仕着せを着た男たちが続き、とうとう完全に見えなくなってしまった。