もし他の固有魔法が発現していたら、この結末は迎えられていなかったかもしれない。

 それは、決して見落としてはいけない事実を知らしめていた。
 この世界にはバタフライ効果はあるけれど、決して変えてはならぬ重要な事象が確かに存在するのだと。
 そして、シナリオという決められた運命通りに進んだ方がより良い未来を――〝最善〟を導く可能性もあるということを。

 だけど……。これから先に起きるかもしれないアルトバロンを不幸にする『番契約』だけは、必ず阻止しなくちゃいけない。
 アルトバロンの人生に決して変えてはならぬ重要な事象があるとすれば、それはきっと私との最悪な『番契約』ではなく、聖女様との出会いと、聖女様とのハッピーエンドだ。

 ……大丈夫。それだけは必ず、〝最善〟を導いてみせる――!

「…………ねえ、アルト」
「はい」

 もふもふしていた手を、そっと手を止める。
 そして誓うように、彼の手を取った。