叫び、怒鳴りつける幻影ばかりを相手にしていると、以前の日々に時間が巻き戻った錯覚に陥る。
 心が冷たく冷えきっていく中、ふと脳裏に浮かぶのはティアベルとの新しい日常だ。

『私の尺度で測るなら、人ならざるものたちに永劫囚われ続けるかもしれない神域より、アルトの固有魔法のほうがずーっと安全で便利だわ!』

 興奮で頬を染める彼女の力説を思い出しては、心が浮き立つ。
 もたらされる安堵や安心感に、喉が鳴り、胸がじんわりと熱くなっていく。

「ふふっ。お嬢様以外の一体誰が、僕の箱庭を安全で便利と笑顔で言い切れるんでしょうね」

 ……過去、父親には魔物と呼ばれて虐げられ続け、母親には笑顔さえ向けられたことすらない。家臣には政治の道具として担ぎ上げられ、恐れられて……すべてを奪われた。

 物心ついた時から愛に触れた経験のない自らの心にも、それは欠陥として如実に現れていたと思う。