休息も取らずに、旦那様の書斎から借りた『魔法空間理論』に関する書物を貪るように読みあさる。
 理論を理解したら次は術式の実戦だ。
 空間を操る魔法には禁術もある。その点、アルトバロンが自由自在に使える魔力領域は、新しい術式の練習に最適だった。

 禁術を駆使しながら、幻影魔法や投影魔法を応用的に使い、幼い頃の記憶と深く結びついた〝箱庭〟の……灰色の檻を、壊していく。

『ヴォルクハイト、なんだその目は。余への侮蔑と苛立ちを隠さぬ、生意気な目だ。〝魔物〟風情が余に逆らおうなどと思うなよ』

 すると幾度もなく、膿のごとく当時の幻影が噴き出してくる。それを以前よりも随分強くなった魔力でねじ伏せ、無感情に剣で切り裂く。

 だが、蓄積され続けた嫌な記憶は、すべて思い出し尽くさねば気が済まぬのか、何度も何度も繰り返し膿を噴き出し続ける。
 その始末をつけるには、とにかく膨大な時間と魔力が必要だった。