血統や魔力遺伝を重要視する『第一皇子派』の上級貴族たちが、幽閉されている第一皇子を担ぎ上げるために心血を注いだ離宮には、もちろん愛や慈しみなど存在しなかったが、温度のない絢爛な貢物や珍しい書物に溢れていた。

 それがすぐに檻の中になり、どこまでも暗く、昏く、寒い場所に一変した。

(降りてきた詠唱は、祝福が与えられた当初から変わっていない)

 つまり〝箱庭〟という固有魔法は、生まれた瞬間からその後の人生までのすべてを知っていたのだ。

(ひたりひたりとにじり寄ってくる死で満たされた場所。……女神からそう告げられたも同然の〝箱庭〟を創り変えるという発想は…………お嬢様を〝箱庭〟に引き摺り込んだあの日まで、僕にはなかった)

 だからこそ、目から鱗が落ちた。

 アルトバロンはその日から、自由にできる時間を最大限に使い、固有魔法の研究に当てることにした。