恥ずかしいやら悲しいやらで、「うー」っと感情をこらえていた唇に、ふたたび差し出された二粒目の狼チョコが優しく触れる。

「ね?」

 アルトバロンは狼耳をかすかに倒して口角を上げる。
 なんだか、まるで、狼チョコとキスしているみたいで、恥ずかしい。

 私がアルトバロンを見上げながら恐る恐る唇を開くと、彼の黒髪がさらりと揺れる。

「もしもお嬢様が〝フィーリア・ウィーティス〟だったら……。僕はきっと、こうして素直にチョコレートをプレゼントできていないかもしれません」
「え……?」

 どういう意味だろう?

「お嬢様。ハッピー・フィーリア・ウィーティス・デー」

 穏やかな表情をした彼は、楽しそうに、甘やかな声音でそう告げた。
 アルトバロンの長い睫毛に縁取られた菫青石の瞳には、言葉では表現しがたい幸福感が、確かに滲んでいた。