彼は私の手の中にあった宝石箱のお菓子入れに指先を伸ばすと、残っていた狼型チョコを摘み上げた。
 私の作ったチョコレートより色艶の良い端整なこの一粒は、アルトバロンが作ったものだ。料理経験皆無にも関わらず、こんなに上手にできるとは流石すぎる。

 アルトバロンは菫青石の瞳を優しく細めて、なぜだか私の唇に、狼型チョコをふにっと押し当てた。

 ……えっ? えええ!?

 長い睫毛をぱちくりしながら驚く私に、「美味しいですよ?」とアルトバロンがこてりと首を倒す。
 破壊力抜群の可愛さに、思わず頬が熱くなる。

「お嬢様、どうぞ。あーん」
「あ、あー……ん」

 彼の指先に触れぬようにチョコレートを食べるのは至難の業だ。
 突然、従僕からもたらされたミッションに内心あたふたしながら、唇を開いた。

「んんん。美味しい! なんだか、私が作ったのとは味が違うわ……!」

 滑らかさも段違いだ。