正直に伝えようと思った。傘を貸してもらった代わりにタオルを渡して昨日返してもらったこと。そして、傘を返しに行こうと試みた日には結局返せなくて今もまだわたしの家にあること。最近の西野くんとの関わりを、ぜんぶ。




「ん?」


教室後方の扉に手をかけた那乃は振り返る。

那乃には心配をかけてしまうかもしれないけれど、これ以上嘘を重ねたくない。それに、嘘を貫き通す自信はない。




「どうした?」



それなのに、いざ那乃を目の前にするとなかなか言えずにいる。打ち明けると決心したばかりなのに簡単に気持ちが揺らいでしまう。



一度視線を落とす。きっと言える。言ったら気が楽になる。


決意を固めて真っ直ぐに瞳を見据える。それから、息を吸って。







「……なに言おうとしてたのか忘れちゃった」


へへ、と苦笑いを見せると、もー、と呆れたような声が届く。



「言いずらそうにしてたから重大な話かと思って身構えちゃったじゃん」

「ごめん」



幸いにも追求されることなく、ははっと笑い飛ばされた。その姿に少しだけホッとしたのは事実で。



「思い出したらまた教えて」今度こそ扉を開ける那乃に、「わかった」と軽く返事をして口元に弧を描く。




教室に入る那乃の背中を見て、なんとも言えない感情が心を支配する。



ほんとうは忘れてなんかいないのに、またひとつ、嘘を重ねてしまった。積み重ねられた嘘が、いつか真実を塗り替えてしまう日が来るのではないかと思ったら怖くなった。そうなる前に、まずは自分自身と向き合って那乃に伝えなければ。