無意識のうちにじい、と凝視していれば、「なに」と視線に気づいた彼は眉根を寄せる。「……なんでもないです」首を横に振ると、腑に落ちない表情を見せた。



そういえば、中学生のときはきちんと傘をさしていた気がする。『雨とかだる……』なんて思春期真っ盛りの西野くんが言っていたことも思い出した。でも、月日が経てば趣味嗜好なんていくらでも変わることあるだろう。




「まあ、そういうことだから使って」



痺れを切らしたのか、寄るとこがあると言っていた西野くんはそれだけ告げるとわたしの手に傘を握らせた。そういうことってどういうこと……?などと訊く暇もなく、呆然とその場で立ち尽くす。ひとり置いてきぼりにされたわたしの目に映るのは、既に歩き出してしまった西野くんただひとり。




ふう、とひとつため息をつく。今はまだ小雨だけど、雨足が強くなる前に帰ろう。明け方まで止まないみたいだから。改札口に向かおうとしたとき、「あ、」と後ろから短い音が聞こえて。




ついさっきまで言葉を交わしていたその声に振り返ると、西野くんと視線がぶつかる。


黒い瞳がまっすぐにわたしを見つめて数秒後。








「どーしても返したいって言うならまた届けに来てよ、世莉ちゃん」