「またお見舞いに来てくださいね、その方が何か思い出すかもしれないから」

 病室のドアを閉めた廊下で智樹の母親は言う。

 わかりました、また伺いますと返事をして病院を後にする。



 美利が自分の家に戻ってくるまでの間はあまり覚えていなかった。

 三人を部屋に招き入れるとテーブルの前でスイッチが切れたように座り込む美利。

 放置したままだった三人分のマグカップをキッチンへと持っていく竜。

 美利の隣に座る琢己。

 美利の正面に座る和巳。

 琢己の顔を見た美利はそのまま琢己の胸に顔をうずめる。

 ぽんぽんと美利の頭を撫でる琢己にしがみつき体をこわばらせる。



「頑張ったよ」

 和巳が言う。

 琢己が美利を抱きしめてその背中をやさしく撫でる。

「う……うぁぁ…」

 琢己の服をしわになる程に握りしめてしがみつく美利は、智樹が事故にあってから初めて泣いた。