クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~

目をそらそうとしてもできなかった。

ほろ酔いなのか、どこか甘たるい雰囲気をまとった彼の眼差しは、それほどの甘美さがあった―――けれども、その目に一瞬にして鋭いものが入る。

今まさに夢の世界から戻ったかのような、はっきりとした変化だった。

どこかその切迫とした様子に動揺を覚えて、私は彼から顔を背けた。

帰りたい。

痛烈に思った。
どうしてこんなところに来てしまったのか―――急に頭が冷えて後悔の念に襲われた。

帰りたい。
でも…帰ったところで昨日となにも変わらない。身を蝕まれるような空しい現実が待っているだけだ。それなら自分で選んだ今の苦しみの方がまだましだ。

でも…私の目的はどうすれば果たせられるのだろう。

ここに来さえすれば、すぐに目的を果たせると思って自棄になって来たけれど、そもそも安易な計画だった。
そう都合よく進むはずがないのに。

馬鹿みたいだ。恥ずかしい…。

ナンパをされて一夜の関係で自分を汚したいだなんて、いかにも世間知らずらしい発想だ。やっぱり今夜は帰った方が…。

不意に、眩しかった照明が遮られた。

「ね、おねーさん」

同じ歳くらいの男の人達が二人、私を囲むように立っていた。