クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~

「とても謙虚なことをおっしゃるのですね。不躾なことを訊きますが、もしかしてあなたはどこかのご令嬢ではないですか? 先ほど皆さんがお辞儀してくださった時にも思いましたが、あなたはひとつひとつの動きがとても綺麗で、洗練されている。恵まれた環境で培われたことを思わせる高い品格をお持ちだ」

けれども―――。
と専務は急に声を低めた。

「夜はひどく、ふしだらになるんですね」
「え…」
「そして、とてもつれない。あの朝、広いベッドの上で独り取り残されてどれほど寂しかったか、俺の気持ち、少しも察してはくれなかったの?」

急に口調を変えた専務は、さらに私に近付き、逃げ道を塞ぐように狭い物品庫内の壁に手をついた。

その拍子に、耳にかかっていた黒髪が微笑を浮かべる専務の頬に落ちる―――私は確信した。

やはり専務こそがあの夜の人なのだと。