「私は妻を憎んだ。政治家一家である私の家に泥を塗り、男としての私のプライドを傷つけ、そして、私の純真な愛を踏みにじった、と…。一方で、深く嘆いた。それでも私は、彼女が愛しかった…」
裏切られた痛みは、それを体験した者にしか解からない。
俺は『父のことは何ひとつ覚えていない』と母にすら言っているが、それは嘘だった。
父との記憶は、実はひとつだけあった。
他愛もない、ありきたりな思い出だ。
小さい俺をいとも簡単に高く抱き上げて、弾けんばかりに笑っていた父。
その手の力強さや温かさにすっかり安心しきっていた俺もまた、心の底から笑っていた。
楽しかった。嬉しかった。
父のことが大好きだと思った。
そんな、平凡な思い出。
平凡なくせに、たったひとつしかない分それはやたらと目立って、あたかも美しい絵画のように加工されて俺の心に焼き付いてしまっていた。
そして、裏切られた痛みを余計に増長させるのだ。
あんなに笑っていたくせに。
あんなに幸せそうだったのに、どうして俺と母さんを捨てたのか。
俺と母さんは、それほどに価値のないものだったのか―――と。
裏切られた痛みは、まるで後遺症のように残り続ける。
俺でさえ、このたったひとつの思い出に苦しめられているというのに、妻を心の底から愛してしまっていた岸議員の痛みは、どれほどの深いものだったろう…。
裏切られた痛みは、それを体験した者にしか解からない。
俺は『父のことは何ひとつ覚えていない』と母にすら言っているが、それは嘘だった。
父との記憶は、実はひとつだけあった。
他愛もない、ありきたりな思い出だ。
小さい俺をいとも簡単に高く抱き上げて、弾けんばかりに笑っていた父。
その手の力強さや温かさにすっかり安心しきっていた俺もまた、心の底から笑っていた。
楽しかった。嬉しかった。
父のことが大好きだと思った。
そんな、平凡な思い出。
平凡なくせに、たったひとつしかない分それはやたらと目立って、あたかも美しい絵画のように加工されて俺の心に焼き付いてしまっていた。
そして、裏切られた痛みを余計に増長させるのだ。
あんなに笑っていたくせに。
あんなに幸せそうだったのに、どうして俺と母さんを捨てたのか。
俺と母さんは、それほどに価値のないものだったのか―――と。
裏切られた痛みは、まるで後遺症のように残り続ける。
俺でさえ、このたったひとつの思い出に苦しめられているというのに、妻を心の底から愛してしまっていた岸議員の痛みは、どれほどの深いものだったろう…。



