「今夜は私用で来ておりますので、遠慮させてください。紹介しますよ、こちらは俺の恋人の岸芽衣子さんです」

二人は俺の行動に息を飲んだようだ。
そして明美さんは、露骨に芽衣子を睨んだ。

その鋭い睥睨から守るように芽衣子をさらに抱き寄せると、俺は明美さんに営業スマイルを向けた。

「機会があれば、お食事は是非三人で行けるといいですね。芽衣子も歌舞伎が好きなんですよ。明美さんとは、いいお友達になれるかもしれない」
「…ええ。そうなるといいですわね」

明美さんは華やかな顔に不快感を滲ませて言うと、腕時計を一瞥して祖母に開場入りを促した。
孫娘同様、その気の強そうな顔を不愉快そうに強張らせた会長も、淡々と俺に挨拶を残して踵を返した。

ふう、と二人の後ろ姿を見送って、俺は小さく吐息する。
ちょっとやりすぎた感はあるが…あのタイプの女性には、このくらいの対応の方がいいだろう。

さて、と芽衣子に振り返る―――彼女のことだから、あの女豹のような睨みに怯えてすっかり子ウサギのように震えているんじゃないか―――と思ったら、

「今の方、リファインCoの会長とお孫さんよね。評判通りの綺麗な方」

つっけんどんに言って、軽く俺を睨んできた。