クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む～運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です～

「まぁ…！　これは専務…！」

突然の俺の訪問に、従業員一同は驚きを隠せないようだった。

主要部門であるカフェ事業と若者向けアパレル事業はほぼ俺の管轄内になってきているが、青二才の俺にはまだ荷が重いと思っているのと、創業時からの思い入れもあるせいか、この本格呉服販売事業については、いまだに母さんやその側近が担っていた。

だから、従業員たちも俺の対応には不慣れなようで、つい動揺してしまうようだ。

強張った笑顔を浮かべて応対してくれる中年の男性店員に向かって、俺は柔和な笑顔を向けた。

「急に来てすまないが、今日は客としてきたんだ。実はこちらのお嬢さんの着物に合う帯と小物一式そろえたくてね」

と持ってきた着物を見せると、店員は感心した声を上げた。

「これはなかなか素敵なお着物ですね。お連れ様の雰囲気にぴったりだ」
「なかなかの品だろう？　これに合うものを買い揃えるとなると、ここに来るのが一番早いかと思って」
「はい！　良いものを取り揃えておりますよ。どうぞご覧になってみてください」

と、慣れた様子で出してもらった帯の本数は、着物に合わせた淡い色合いのものから、対象色の粋に見えるものまで、五、六本。
どれも素晴らしいものだ。選び難い。