クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~




急なこととはいえ、雅己さんのお母様にガウン一枚でお会いするわけにはいかない。

エントランスからこの部屋がある階まで昇ってくるわずかな時間の間に、バックからメイク道具を持ってきて、あちこちに散乱していた私の衣類をかき集めて別室に入る。

ドアを閉めたと同時に、インターホンが鳴った。

「何しに来たんだよ、急に」

雅己さんが露骨に不機嫌な声で言った。

「私だってこんな朝から家に上がるつもりなんてなかったのよ。でもおまえに用事があって珍しく朝一で電話したら高田が『専務はまだ出社されていません』って言うじゃないの」

身なりを整えつつ初めてしっかりと聞くお母様の声は、若々しく凛としていた。
いかにも代表取締役という威厳を感じてしまう…。

「どうせまたクラブだが場末の飲み屋で引っ掛けた女と朝寝坊をやらかしたんだろうと思って、いい加減お灸をすえてやろうと来ました」

雅己さんが女性を連れ込むのはよくあることらしい…。

うう…本人からも聞いていたから今更落ち込まないけれど…このままお会いしたら、私もお母様にそういう女性だと思われてしまうのだろうか…。

私は雅己さんとの交際を認めてもらえるだろうか…。
不安で一杯になる。

「母さん、もういい加減、俺はそんな馬鹿な遊びはやめるよ」

雅己さんはきっぱりと言った。

「紹介したい人がいるんだ」

ファンデーションのミラーでぼさぼさの髪をどうにか整えたところで、ドアのすぐ向こうから「大丈夫?」と雅己さんの問いかけ聞こえた。