クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~

「何か予定は増えたかな?」
「あ、ええ二件新規で」

タブレットでスケジュールを確認するなり、専務の表情が少し引き締まった気がした。

「芽衣子君、悪いんだけれど、この予定は過密だ。もう少し余裕があるものにしてもらえないかな」
「も、申し訳ありません…!」
「これらの先方とは、じっくり話したいことがあってね。あと準備も必要だから」
「わかりました。すぐにご相談の連絡をします」
「悪いね。就いたばかりなのに、いろいろ無理させて」

専務が申し訳なさそうに微笑んだ。
そんな笑顔を向けてもらえる資格なんて、今の私にはない。
私は泣きそうになるのを堪えて、精一杯の笑顔を向けた。

「いいんです。私は、専務のためにできることを、一生懸命頑張るだけですから」

休憩時間も間もなく終了だ。
残りの時間はお一人でゆっくりしたいだろう、と退席の挨拶をして出て行こうとしたら、

「…ごめん、ちょっと待って」

専務が立ち上がる物音が聞こえた。
振り返ろうとしたら、身体が急に引き寄せられて、身動きが取れなくなってしまった。

専務に抱き締められてしまって。

「あ、あの…」

ぎゅうとさらに強く抱き締められて、専務の熱い体温と力強い腕に捕らわれて、息もできない。

耳元で、ほぉと安堵するように吐息が聞こえた。

「これが…今の俺の一番の癒しだな」
「……」
「困るかもしれないけど言わせて。君の笑顔が、俺は堪らなく好きだ…」

「よし。充電完了」と言って、専務は私の身体を引き離した。

ドキドキして、頭が真っ白でもう何も考えられなくなっている私の頬を撫でて、専務は苦笑いを浮かべた。

「ごめんね。今日はちょっと疲れているから、サービスしてね」

何も言えず、ただ俯いて真っ赤になる私だけれど、そんな私を愛おしげな目で見つめる専務の視線を苦しいほどに感じる。

「早いけど、君もお昼を食べておいで。亮子が美味しいお店を知っているから」

「失礼します」と会釈して、私は専務室を足早に出て行った。