「行っちゃったね…」

「うん…」

ドアの音が終わったのと同時に声をかけてきた絹子さんに、私は返事をした。

「あんなにも真剣に、大切に思ってくれるなんて…亜月、あなたは幸せ者ね」

そう言った絹子さんに私は何だか照れくさくなってしまった。

「彼のためにも、自分のためにも、幸せな家庭を築きなさい。

寂しい思いもつらい思いもたくさんしたんだから、きっと築くことができるわ」

「うん、そうだね…えっ?」

首を縦に振ってうなずいた私だけど、ふと気づいた。

「絹子さん…もしかして、話を聞いてたの?」

そう聞いた私に、
「さて…今日はお休みだから二度寝でもしようかしら」

絹子さんは大きなあくびをしながら玄関を後にした。

ありゃ、聞いてたな…。