『ここで過ごす最後の思い出をありがとうございました』

目を覚ましてすぐに服を身につけると、鏡台の前に置いてあるメモ用紙にそう書いた。

名前を書こうか…と思ったけれど、やめた。

どうせもう会うことなんてない。

彼もすぐに私のことを忘れることだろう。

心の中でそう呟くと、ボールペンを置いたのだった。

後ろを振り返ってベッドの方に視線を向けると、孝太はまだ眠っていた。

私はボストンバッグを手に持つと、ドアの方へと足を向かわせた。

「ーーさようなら…」

そう呟くと、ドアを開けた。

孝太が目を覚ました頃には、私は新幹線に乗って故郷へと向かっていることだろう。

私たちが会うことは、もう2度とないだろう。